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ザンビアの国立公園での仕事 -野焼き-

今栄@ウェールズ

 私は92年から95年まで青年海外協力隊員として、ザンビアのサウスルアングア国立公園で生態調査官として働いた。国立公園での仕事にはいろいろあるが、今回は野焼きについてお話したい。

 野焼きは乾季の初めから中盤にかけて行われる。サウスルアングアの場合、乾季は5月頃から10月頃までで、その年の雨の状況によるが、大体5月中旬から7月上旬にかけて、川辺の平原や丘陵地帯の林内の乾いた草を焼く。焼いた後の草原からはまた新たな草が芽吹いてきて、草を食べる動物達の食料となる。乾季が進むにつれて緑が少なくなるので、新たに芽吹いてくる草は貴重な食料だ。野焼きをしないと困るのは動物達だけではない。乾季終盤のカラカラに乾いた季節に乾ききった草があふれていると、野火が発生しやすく、一度発生してしまうと火は瞬く間に燃え広がり、消しようがない。それを防ぐためにも、乾季初めから中盤にかけての、草は乾いていて燃えやすいが樹木はまだ水分を保持していて燃えにくい時期に、草だけを焼いてしまうのである。つまり、火をコントロールしやすいタイミングを見計らって草を焼くことで、防火帯を作っているのである。

 乾季終盤に野火が発生し、消火作業にあたったことがある。野火の消火に何を持っていくかというと、斧である。野火の現場に行って、まだ葉っぱをつけている枝を見つけては斧でぶった切り、その枝を持って火を叩き消すのである。もちろんそうやっているうちに葉っぱが全部燃えてしまうから、そうなったらまた新しい枝を探すのである。それを人海戦術でこなすのだが、大変な作業だ。気温はこの頃が一番高く、昼間は40度近くになる。昼間の消火作業は太陽と火でむちゃくちゃ暑く、脱水症状を起こしやすい。しかも消したと思ってもすぐにまた燃え出してしまうので、あまり意味がない。よっぽどのことがない限り、消火作業は夜に行う。夜には20度まで気温が下がり(内陸国なので日較差が大きい)、昼間よりは火を消しやすい。それに、暗がりではどこに火がついているかが一目でわかるので、消すのもまだ昼間よりは楽だ。

 夜の消火作業で怖いのは移動だ。できるだけ多くのスタッフをかき集めて、車で野火の場所までできる限り近づくが、あるところからはやぶの中を歩いて進むしかない。夜のやぶは非常に怖い。国立公園の中なので、野生動物は当然いる。ライオンやゾウ・カバなどの危険な動物がいるかもしれないやぶの中を歩くのは、いかに大人数とはいえ、緊張する。できるだけ物音を立てながら歩き、いるかもしれない動物達に警告のメッセージを送る。先頭や最後尾を行く人は銃を構えながら神経を尖らせている。サウスルアングアのスタッフは、こういうとき非常に頼りになった。経験豊富で勇敢なスタッフが男性にも女性にも多く、夜中でも現場に辿り着くルートを的確に見分け、また動物達の気配にも非常に敏感だ。ある動物に気づくと、その状況に応じて、他の動物の鳴き声を真似してみたり、皆でどんどんと足を踏み鳴らしたりして、動物を追っ払ってくれる。スタッフのこういう能力は現場経験を通して発達してきたのだろう。非常に頼もしい。現場に着くと、チームに分かれて、火を消しにかかる。夜の作業ではぐれないように、チーム毎にかたまって火消し作業を行う。各チームには銃を抱えて辺りを警戒しチームを守る係もいる。不謹慎な言い方だが、ひんやりした夜の空気の中で、汗をかきつつ、火を消しているのを気持ちいいと感じることがある。仕事の結果がその場で見れる手応え、スタッフと一緒に過酷な状況で仕事をしているという一体感、そのせいだろうか。

 とはいえ、野火の消火作業は非常にきつい仕事である。特に、昼間の消火作業を経験したら、「来年は野焼きを完璧にやってやる!」と誓うこと間違いなしである(経験者は語る)。野焼きの準備は4月頃から始まる。サウスルアングア国立公園の大きさは9050平方キロ(山形県とほぼ同じ)で、その中に、植生や野焼きのし易さなどを考慮して、8本の野焼きラインが設定されている。道路に沿ったラインでは、車で火をつけながら走ることができるので、割と楽である。丘陵地帯の林を横切るラインは数本あるが、数日かけて、キャンプ道具を担ぎながら徒歩で火をつけていくことになる。最初に焼くラインは川辺の草原を突っ切る道路沿いなので楽だが、その時の草の燃え具合や樹木の乾き具合などを見ながら、他のラインを焼くスケジュールを考えるので、大切なスタートである。

 以下、日記調で書いてみよう。

 (5月3日)明日最初の野焼きをする。今日のうちに車に燃料を満タンに入れ、マッチを4箱用意し、銃や斧も手配した。明日の野焼きは一日で済むから、食料はスタッフ4人の昼食分だけでいい。鍋と鉄製の簡易コンロと炭は用意できたが、ミリミル(とうもろこしの粉、ザンビアでの主食になる)とカペンタ(煮干、おかずになる)がなかなか手に入らなかった。倉庫番がいなかったからで、探し回ったが見つからない。同僚のAは「明日の朝また探せばいいよ。彼はきっと朝には来るから。」と言う。またいつもの議論になると思いつつ、「そんな事言って、もし彼が来なかったらどうするんだ?仕事ができなくなるじゃないか。今日のうちに探しておかないとだめだよ。」と言い返すと、彼は「しょうがないなあ」という感じで苦笑した。幸い倉庫番が見つかって、明日の食料を手に入れることができた。食事用の水を20リットルのポリタンクに入れて、明日の準備は完了だ。

 (5月4日)朝早くにスタッフ全員と出発した。午前10時ごろまでには焼き始める地点に着いておきたい。雨季の間は閉ざされていた道路なので、状況が心配だったが、幸い大きなぬかるみなどは無かった。動物達は久々に見る車に驚いたようで、走り回っている。雨季に栄養あるものをいっぱい食べたせいか、はつらつとして見える。10時少し過ぎに焼き始め地点に着いた。思ったほど乾いていない。まあ、でも焼いてみよう。最初はあまり火が燃え広がらず、マッチを無駄にしていただけだったが、昼に気温が高くなってきたせいか、火のつきが良くなってきた。そのまま火をつけながら草原をゆっくりと突っ切って、公園局のキャンプまで辿り着いた。ここは公園内に配置された小さなキャンプの一つで、ここを拠点に密猟対策のパトロールに出たり、公園に出入りする車をチェックしたりしている。キャンプのスタッフと情報交換しつつ、昼食の準備もさせてもらった。昼食を食べた後は仕事をしたがらないので、ここは焦らずに1時間ほど休憩した。その後、キャンプを後にして通って来た道を戻り、草の焼け具合をチェックした。うまく焼けていないところもあるので、防火帯の穴を作らないように気を配って焼いた。動物達は火をあまり気にしていないようだ。インパラなど、火が近くまで来てはじめて、「めんどくさいなあ」という感じでのろのろと移動している。火に慣れているのだろうか。このラインはうまく焼けたようだ。スタッフと話し合い、次の低木の多いラインはまだあまり乾いていないだろうということで、 10日後に様子を見ながら焼くことになった。とりあえず、無事に第一段階をクリアしたようで、ほっとした。この調子で進めていきたい。



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