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将来国際協力に携わりたいと考えている学生からの手紙

喜多昭治

 はじめまして、名古屋大学の大学院で都市環境管理を勉強している、喜多と申します。今回は、『将来国際協力に携わりたいと考えている若者からの手紙(仮名)』というお題で一つ原稿を書いてみないか、という申し出をいただき、悩める一大学院生の「思うところ」を書かせていただくことにしました。

 社会人の方には、最近多い「国際協力の世界で働きたい学生」の手記として、学部学生の方には、選択肢の一つに上げているであろう、「大学院進学」についての評価材料の一つとして読んで頂きたいと思います。ただし、私の関心が環境分野にあることから、そちらの方にバイアスがかかっています。あらかじめ、ご了承ください。

 構成としては、国際協力の世界で働きたいと思い立ってから現在の専攻を選ぶに至るまでの経緯と、今後のキャリアプランについて、時間軸にそって書いていくことにいたします。

 国際協力に関心を持つようになったのは、大学受験時の志望校選定に際し、自分は何をしていきたいのか?と考え始めたころでした。それまでは、ただ空を飛びたいというだけで、航空・宇宙工学でもやりたいなと思っていたのですが、まじめに物事を考えるようになると、弱い立場にあり自分達ではどうしようもない状況に置かれている人や草木を放っておいていいのかという思いを持つようになりました。当時浮かんだ対象は、少数民族と動植物。前者は自助努力も出来るし支援の大きな枠組みもあるが、後者は完全に受身の立場にあるうえに、今後も状況の悪化が考えられる。ということで、環境問題の改善策を追求していくことに決めました。

 大学は、政治や経済を勉強でき、さらに他学部の授業もとれ、それを国際的な枠組みの中で研究が出来るという大学を選びました。この頃から将来の選択の幅を狭めたくないという、欲張りなところがありました。既存の枠組みの中での環境対策に疑問をもっていたからです。学問領域でも職域でも、何か一つの枠組みの中で問題を分析し、対策を打っていくことに抵抗を感じていました。そこで、上記のような多角的な問題分析の素養を養えそうな大学を選ぶことになりました。

 大学は国際関係学中心のカリキュラムでしたが、自分はそれと平行して、ひとり環境問題について勉強を進めていました。当時話題だった京都会議についての検討から始め、各国政府の二面外交や途上国の急速な経済発展に伴う環境負荷の増大の大きさを知るようになると、焦点を、途上国の政治過程や開発戦略に移して勉強するようになりました。

 そんなとき、中国で環境教育の普及を図るNGOについて北京を訪れたところ、中国では政府の環境意識は高い水準にあり、先進国に範をとった法整備も進めていると喧伝をうけました。お役人さんだけでなく、環境問題を勉強する学生もそう力説します。…が、実際の北京の状況はやはり大気汚染などで悪化傾向が見られ、なぜ政府の環境政策は十分に機能していないのか?という疑問をもって帰国することになりました。この疑問は、現在でも自分の問題意識の中心になっています。学部生の間は、こんな感じで次々に研究テーマを展開させていました。

 さて、4年次になる頃には、”進路”の問題が大きな壁として、立ちはだかってきます。3年次の終わりごろから、国際協力の実務に携わる方へのインタビューや開発関係の勉強会に参加し始めたのですが、そこでは、大きく二つの問題が発生しました。一つは、開発問題に対するコミュニケーション能力不足の問題。もう一つは、何がベストの選択か判断が付かない段階でも、次々に進路選択を求められてしまうという問題です。

 前者については、国際協力用語に不慣れであったことや、「開発」を見る視点がちがっていたことが大きかったですね。私の専攻は「国際開発学」であったものの、カリキュラムでは、旧来の学問体系や分析手法からのアプローチが多く、JICAやJBIC等の日本の国際協力事業について学ぶことはほとんどありませんでした。NGOベースの国際協力活動についてはなおさらです。協力専門家の皆さんとの共通認識は少なく、何かを聞くのも伝えるのも、とにかく大変でした。少し話すだけでもくたくたになり、おれはこの世界でやってかなきゃなんないのか…と、しょっちゅうブルーになっていたものです。

 進路選択については、何を専門としていくべきかについてしっかりとした検討を済ませる前に、次から次へと決断を迫られていきました。(今でもです…。)大学での研究はどれも自分の専門分野を探すためだったのですが、現場経験も少なく、結論は出ないままでしたので、取り敢えず一通りの選択肢を覗きつつ、就活等を進めていきました。去年の大まかなスケジュールは以下のような感じです。実際のスケジュールでは、それぞれが前後にオーバーラップしています。

正月 → 論文作成(自分なりの途上国の環境問題に対する認識と分析の整理)大学の講義 → 勉強会・セミナーへの参加、インタビュー → 留学奨学金受験 → 就職活動 → 大学院入試 → インターン(インドネシア・地域間国際環境協力事業) → 卒論作成 → 正月

 去年は本当に大変でした。

 皆さんには、この一年は、ごちゃごちゃし過ぎているように映るかと思われますが、学部生の段階から、国際協力分野でメシを食べていこう!と思うと、こうなってしまうんです。

 現在、ご活躍中の専門家の方々には、まず日本で職務経験を積まれるか、あるいは途上国で一定程度の生活を経験された後に国際協力業界に足を踏み入れられるかのケースが多いかと思います。一方、私たちのような学生は、経験の乏しいうちから、メディアなどの情報を通して途上国の人々に対する思いなどを持ち、同業界を志望するに至ります。

 志望者の絶対数が増える中で、開発援助の予算は頭打ちになっている上に、そのフレームワークや方向性は変化を続けています。迷える学生を導いてくれる、人材育成の仕組みもありません。私たちは、学生の間の限られた期間に、少しでも多くの情報を仕入れ、キャリアの組み立てを行う必要に迫られることになるのです。

 このような状況下で、学生は現役の専門家にアドバイスを求めていくことになります。でも専門家の方々から見れば、学生は、何も知らない、まだまだ一人前になれそうも無い“国際協力に憧れる最近の”学生になります。私は持ち前のずうずうしさと鬼気迫る思いからインタビューを続けましたが、人の良い、相手の考えが分かる学生は、しり込みして大事なきっかけを逃してしまうことが多くなります。

 専門家の皆さんには、たとえ的外れなことを言う学生が質問に来たとしても、嫌がらずに何らかの指針を与え、将来につながるアドバイスを与えて頂きたいと思います。ご存知のように、学生は非常に狭い世界しか知りません。皆さんの携わっているお仕事の紹介を頂くだけでも、学生の見識と可能性は一気に広がります。次に来る時には、その成長ぶりを確認出来るはずです。

 一方、学部生の皆さんには、多少の”へこみ”は覚悟でどんどん自分の共感する分野の専門家に教えを請いに行ってほしいと思います。もちろん、努力して失礼のないように準備をするのは必要です。(注1)私たちには雲の上の方々でも、真剣でかつ自分の意見に興味を持ってくれる学生を悪く思うことはまずありません。あいまいなことを話して許されるのも、学生の特権です。(違うかもしれませんが、そう信じましょう。)最終的には、思いの強さが国際協力分野への就職の可否を左右すると思います。是非、頑張って下さい。もちろん、生業にするだけが選択肢ではありませんが。

 さて、私は今、昨年から始めました都市環境管理システムの国際比較分析と、地域間国際環境協力プログラムの同システム強化に果たしうる役割について大学院で勉強を行っています。現在の指導教官は、その研究過程で昨年の夏に見つけました。その先生の所属専攻は土木系でした…が、決めました。この人のもとでなら力をつけられると感じられたからです。

 ベストの選択だとは信じてはいるものの、初めて聞く用語やコンセプトが多く、再びコミュニケーションに困る毎日を送っています。しかも、数学などの基礎学力から追いついていません。実は入試は工学部を受けましたが、内容は大きく文系学生に配慮されたものになっていました。

 また、学部生の皆さんへのメッセージになりますが、国際協力を取り巻く枠組みは限りなく広くあり、それは僕たちの認識の中にあるもの、つまり近年の状況変化に対応するように動いています。自分にぴったりくる進路が、どこに隠れているかわかりません。積極的に活動を行って、ぜひ、それを見つけて欲しいと思います。見つけたそのフィールドでは、きっと向こうもあなたを必要としてくれることと思います。

 研究室の友達の議論にもついていけない僕ですが、秋からは留学を予定しています。(注2)社会に出るまで、あと数年。相変わらず、ごちゃごちゃが続きます。その間に一人前になれるかどうかは怪しいものですが、本人はいたって真剣です。広くて狭いこの世界、ご一緒することもあろうかと思います。その折には、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。

(注1) 専門家の皆さんとのお話をスムーズにできる本として、“一般的に”役立つものとしては、JICAの年報があります。専門家の方々が、どういった枠組みの中でお話されているのかがわかりますので。

(注2) 研究は、日本をベースに続けることになります。国内で専門的な研究が出来るとは思っていなかったのですが、援助大国ニッポンには、駆け出しの私には十分すぎるだけの経験と研究の蓄積がありました。留学は、言語能力の向上や学部専攻分野の実務レベルでの“仕上げ”が目的になります。



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